「なんでこんなタイミングで私はこの本と出会ったのだろう?」

小説を読んでいるとそんな気分になることがかなりの頻度であります。

自己啓発本は表紙に内容が書いてあることが多いです。そうすることで「この本は読者であるあなたのニーズに答える本ですよ」ということをアピールし、興味を持ってもらうために。

興味を持ってもらえれば当然買ってもらえる可能性も高まります。

しかし小説はそういうわけにはいかないことがあります。タイトルと表紙の絵でなんとなく内容をイメージはできるものの、果たして何が書いてあるのかが分からないということが小説ではよくあります。

ある意味「どんな物語が書かれているのだろう?」という疑問を抱かせることで興味を持たせているのかもしれません。ここは自己啓発本とは異なるところでしょう。

にもかかわらず、たまたま手に取った小説に「今の自分にふさわしい言葉」を見つけることが多いのはなぜなのだろう。

あるきっかけで私はジェームズ・ヒルトンの『失われた地平線』を読みました。しかしたまたま手に取っただけのこの本には私にとってタイムリーな内容でした。

10年前くらいに見たパチンコのテレビCM

何気なく耳に入っただけの、意味も分からない言葉なのに強く記憶に残る言葉というものがあります。

10年くらい前、『蒼穹のファフナー』というアニメのパチンコ台のCMを頻繁にテレビで見ました。パチンコ台のイメージに合わせてアニメのシーンが流れ、BGMにはもちろんアニメのテーマソングが使われていました。

♪僕らは目指した シャングリ・ラ
♪欲望は抑えきれずに

Uta-Net

私は当時も今も『蒼穹のファフナー』のアニメ作品を知りません。だからそのテーマソングもその時初めて聞きました。

ただ「曲調がかっこいいな」と感じたのか、「シャングリ・ラ」の言葉は意味が分からずともずっと記憶に残っていました。

TVアニメ「蒼穹のファフナー EXODUS」キャラクターソングアルバム

「シャングリ・ラ」とは(この本のあらすじ)

最近GoToトラベルを使って旅行に行くことが増えました。夫婦でちょっと旅行に出かけようということになりホテルを調べていたところ、「シャングリ・ラホテル」というものを見つけました。

そのホテルのことは詳しく知りませんでしたが、10年くらい前から記憶に残っていたその「シャングリ・ラ」という言葉を再び目にしたことをきっかけに、私はその意味を調べてみることに。

シャングリ・ラとは架空の地名であり、ジェームズ・ヒルトンの『失われた地平線』という冒険小説に登場する楽園とのこと。

イギリス人の主人公が乗った飛行機がチベットの奥地に不時着してしまう。その後主人公は導かれるようにしてシャングリ・ラの地に辿り着き、そこで欧米にはない幸せを発見する。

Wikipedia 失われた地平線

元々冒険物や「楽園」「ユートピア」といったテーマの作品が好きな私は、

「こうしてたまたま『シャングリ・ラ』という言葉が目に止まったのだから、これも何かの縁だと思って読んでみよう」

ということで『失われた地平線』を読み始めました。

夫婦ででかけた北海道旅行

結局北海道に旅行に行くことになり、私は新千歳空港に向かう飛行機の中で『失われた地平線』を読みました。

世界最高峰の険峻な山に囲まれ、空気が薄く、それゆえの快適さがある楽園シャングリ・ラ。

全国的に曇り空が広がっていたその日の飛行機の窓の外には雲海が広がっていました。その風景を見て私はチベットの高地にあるシャングリ・ラを思い浮かべました。

自分にとっての幸せ

夫に言わせると、

「詩織は仕事が大好きなんだな」

ということ。

私が「今の仕事自分に本当に向いてるのかな?」と嘆くと、

「詩織から仕事を取ったら何が残るんだ」

と言われる始末です。

楽しいこともたくさんありますが、嫌なこともたくさんある仕事。それでも夫にそう言わしめるほど、私は自分の仕事が好きなのかもしれません。

私にとって仕事とは自分の思いを、哲学を表現する手段です。

仕事では人との関わりが必要になってくる。そんな中でどうしても人と争うこともある。人と争うことはそれなりに体力や精神力を消耗する。願わくば避けて通りたい道ではあります。

人と争うことなく、自身の哲学を表現する。それができたらどんなに幸せだろう。

そして哲学を表現する過程に大切な人とのつながりがあれば、最高の人生になる。

雲海に浮かぶ飛行機の中で『失われた地平線』を読み、夫と北海道旅行をしながら、私は私にとっての楽園を思い浮かべました。

まとめ

「成功=幸せではない」
「お金を稼ぐ=幸せではない」

ということは広く言われています。私はこれまでにも、私がこうして仕事をするのを面白く思わない人たちから「愛情(笑)」を込めてこう諭されたことが何度もありました。

この言葉は真理であり、一方で誤った意味で使われることが多い言葉だとも思っています。言っている人間の立場や社会的地位、これまでの経験、そして語りかける相手に対する意識によって意味が大きく異なる言葉です。

「お金や社会的地位ではない幸せとは何なのか」

ジェームズ・ヒルトンの『失われた地平線』はこの問いの答えを静かに優しく教えてくれる気がします。

編集後期

休日ということで夫婦でカフェに出かけました。

焼きリンゴの甘さとキャラメルのほろ苦さがたまらない一皿。

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