多くの人にとってコートはあまり何着も持ち合わせないものであるため、無難な色を選びがちになるのだろうか。この時期の人の群れは黒・紺・グレーだらけになる。

駅で電車から吐き出された群衆が改札を目指して階段を上る。

黒・紺・グレーの人たちがざっざっという足音と共に上っていく様を階段の下から見ていると、どうしても憂鬱になってしまう。

「改札を出るために、自分もこれからこの群衆の中に入らなければならない」

階段の下で一瞬私は考える。

しかし躊躇していては駅から出られないため、渋々私もその群衆の中に入っていく。

暗い色の群衆を眺め、暗い色の群衆の中に入り、暗い色の群衆の波に乗るようにして改札に向かって歩いていると、どうしても気持ちが暗くなってしまう。

 

 

 

 

だから私は真っ赤なコートを買った。

 

 

 

 

外の冷気からしっかりと体を守ってくれるダウンコートは冬の間も頑張る私の強い味方になってくれる。

このコートを着ていれば、冬の暗い群衆の中でも背筋を伸ばして歩くことができる。

「自分らしさ」や「個性の尊重」が叫ばれる世の中で、私は真っ赤なコートを着て冬を過ごすことにした。

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