「どんなに努力をしたって、夢を実現できるのはたった一握りの人だけだ」

作家・モデル・ライターとして仕事をし、今は夫婦で北海道移住を計画している筆者もそんなことを周りから言われてきた上に、そう言っている人を見てきた。さらに今でも自分自身でそうなのではないかと疑い、不安に陥ることがある。

今日もまた不安に襲われているため、あえてその「一握り」というものについて考える。

「実際に作家で食っていけているのは一握りの人だけだ」

筆者が「作家になりたい。執筆業で食っていきたい」と思い始めたのは高校生の頃だった。進学校だったのもあり、1年生の頃から先生も生徒も大学進学を意識していた。そういう校風であることを理解した上で志望し、入学したのだから筆者も筆者の両親も当然のように「高校卒業後は大学に行く」と思っていた。

そして大学を卒業した後は会社員か公務員になって自分の力で稼いで生活していくものと、筆者も筆者の両親も当然のように考えていた。一般的なサラリーマン家庭だったので、その考えは余計に強かったかもしれない。

だから筆者の「作家になりたい」という夢は、両親にとってありえないものであると同時に、それを口にしている筆者自身も「ありえない。できっこない」と強く感じていた。

「執筆だけで食っていける人間は一握りしかいない」

両親は私の作品を読んで褒めてくれた。しかし少しでも筆者が作家を志す様子を見せると、そう言ってその夢を諦めさせようとした。

筆者自身もそう思っていたのもあり、「執筆は趣味でやろう」と思い、大学卒業後は一旦一般企業に就職した。

「作家になりたい」と言っている人の種類と段階

その後紆余曲折あって筆者は結局会社を辞めてライター・作家(そしてモデル)の仕事を始める。始めてみて確かに安定した収入を得ることの難しさは感じたものの、結局なんとかなっている側面もある。

自分のこれまでの経緯を振り返ると同時にこれから先のことを思い描くと、子供の頃から言われていた、そして今も広く言われている「実際に作家で食っていけているのは一握りの人だけだ」に対していろいろ考えてしまう。

「その『一握り』ってどこから取った『一握り』?」

一口に「『作家になりたい』と言っている人」と言っても様々である。何年も文学賞に応募していても一度も大賞が取ったことがないという人もいれば、SNSなどに自分の作品を投稿し続けている人もいる。さらに最近では筆者のようにKDPなどの電子書籍出版で自分の作品を販売している人もいる。

中にはただ口では「作家になりたい」と言ってはいるものの、「今日はモチベーションが上がらないから書けなかった」と言って1年に数百文字書く程度の人もいる。

「作家になりたい」と言っている人でもこれだけバラつきがあるのだ。

さらに娘に「作家なんて簡単になれるものじゃない」と言っていた両親はメーカー勤めであり、別に出版業界に精通しているわけでもない。必死に力説するものの実は「なんとなくのイメージ」で語っているだけで実態はよく分かっていない。

「実際に作家で食っていけているのは一握りの人だけだ」の「一握り」はどこから取った「一握りなのだろうか……と、「作家になりたい」「夢を叶えたい」と思っている人は一度考えてみる価値はあると思う。

夢の生活費と実際の生活費

北海道移住を計画するにあたって移住の先輩から実際のお金の話を聞く機会があった。元から想像はしていたが、都会で暮らすよりも生活コストは低いという話も聞いた。ただし、北海道で暮らす上では車の維持費と冬の灯油代の確保は必須とのこと。

話を聞いていると「夫婦2人なら世帯年収500万円で十分生活できるんじゃないか」という印象だった。

年収500万円。

仮に執筆業だけだったとしても、そこまで無理な数字という印象がないのは筆者だけだろうか……?

「作家だけで食っていく」と言うといかにも「作家の仕事だけで莫大な金額を稼いでいる」という印象を受ける。「一握りの人間だけがそれを実現できる」とは、多くの人がそんな実態を伴わない印象をイメージして語っているだけのことではないだろうか。

しかし標準的な生活を目指すのであれば別に莫大な金額を稼ぐ必要はないのだ。むしろライフスタイルによっては人から「たったこれだけ?!」と驚かれるような収入でも実現できる。

本当に「執筆業だけで食っていく」「自分の好きなことをして生きていく」ことを目指すのであれば、努力するだけではなく自分が理想とする生活にどれくらいお金がかかるのかを知るのも重要になってくる。

むしろ必要なお金を把握することで自分の夢を叶えられることも多いのかもしれない。

まとめ

「夢を叶える」と聞くといかにも大それたもののように感じてしまう。だから同時に「夢を叶えるのは難しい」、そして「一握りの人間しか叶えられない」という考えに至りがちになってしまう。

けれどもそもそもその「一握り」がどこから取った「一握り」なのかが曖昧であることは多い。

幼稚園で使う黄色いバケツに入った砂から取った「一握り」と、サハラ砂漠から取った「一握り」とではわけが違う。もしかしたらその「一握り」は所詮幼稚園の時に使った黄色いバケツから取った程度のものなのかもしれない。

さらによくよく考えると別に莫大な金額を稼がなくとも理想的なライフスタイルは実現するということは分かる。

「工夫次第で意外と簡単に夢って叶えられるんじゃないか」

何かと不安に陥りやすい筆者だが、不安の中でふとそんなことを考えた。

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